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煩悩退散!

シンプルライフを目指しています。なのに煩悩(物欲・食欲・承認欲 etc.)は尽きません。そんな煩悩をここで吐き出して成仏させようとする試み。

【読書】水島昇著『細胞が自分を食べるオートファジーの謎』【ノーベル賞受賞記念】

少し前に発表がありましたが、2016年のノーベル生理学・医学賞は、東京工業大の大隅良典栄誉教授が受賞することになりましたね。そろそろ授賞式も始まります。その対象となったのが細胞の「オートファジー(=自食作用)」についての研究です。詳しく知りたいなと思っていたところ、Kindle Unlimitedでこの本が読み放題になっていました。説明がとてもわかり易いので、こちらの本を読んでもらった方が速いと思いますが、自分の頭の整理のためにも私の理解したことを書いてみたいと思います。

細胞が自分を食べる オートファジーの謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

細胞が自分を食べる オートファジーの謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

細胞が自分を分解する

オートファジーとは、細胞内で行われる分解作用の一つです。

何を分解するかというと、主に私たちの体を作っているタンパク質です。そのタンパク質を分解してアミノ酸にして、別のタンパク質を作る材料にしています。

「オート」は「自分」を意味し、「ファジー」は「食べる」を意味する語で、「オートファジー」はそれらの語をつなげた用語です。

なぜ自分を分解する必要があるのか

それは、体の新鮮に保ちその機能を維持するため、エネルギーを生成するため、そして、体に変化を起こすためです。

私たちは、毎日の食事で体重1kgあたり約1gのタンパク質を摂取していると言われています。体重が70kgの人であれば、70gですね。

食事で摂取されたタンパク質は、消化によってアミノ酸に分解されます。生物はこのアミノ酸をつなぎ合わせて、体に必要な様々なタンパク質を日々合成しています。

では、このタンパク質の合成量は一日にどのくらいかというと、体重70kgの人で、意外なことに70gではなく200gもあると言われています

ちなみに、70kgの人では、一日に70gのタンパク質に相当する量が排泄等で失われています。つまり、食事は、外に失う量をちょうど補うくらいの量になっているということですね。当たり前ですが。

食事だけでは足りないアミノ酸は、実は、既に体の中にあるタンパク質を分解して供給されています。その一端を、今回ノーベル賞の対象となったオートファジーが担っているわけです。

細胞が生きていると、その中には合成に失敗したタンパク質などが溜まってきます。これらを放置すると細胞の中はゴミだらけになって、正常に機能することができなくなります。これらのゴミを分解して、本当に必要なタンパク質の合成に振り分けなければなりません。

また、体が飢餓状態になった時には、飢餓状態に対応するのに必要なタンパク質を自分の体を分解してでも生成することが必要になることもあります。

さらに、体が成長していく過程では、細胞やタンパク質の構成が大きく変わることもありますので、それに対応するために自分の体をいったん分解する必要がでてくることもあります(昆虫の変態などはその最たる例ですね)。

オートファジーは細胞内のリサイクルとも言え、生命の維持や様々な病気とも関連しているのではないかということで、急速に注目を集めている研究分野です。

オートファジーとは

細胞の中には、リソソームと呼ばれる細胞小器官があります。この中は酸性で、70種類以上の消化酵素があり、中に入ってきたもの(タンパク質、脂質、糖、核酸。タンパク質が主)を分解することができます。分解されたアミノ酸などはリソソームの膜を通して細胞質に戻っていきます。

このリソソームは脂質二重膜という膜で囲まれていて、消化酵素が外に漏れ出さないようになっています。逆に言うと、外のものも簡単には内部に入れないことになります。

このリソソームに分解したいものを届ける方法の一つがオートファジーです。

他の方法と一緒にまとめると、次のようになります。

細胞外のものをリソソームに運ぶ(エンドサイトーシス):

  • ファゴサイトーシス: 細菌や死んだ細胞などを細胞外から取り込んで分解する。マクロファージなどの貪食細胞が行っている。
  • ピノサイトーシス: 細胞外の液体状のものを取り込んで分解する。すべての細胞が行っている。

細胞内のものをリソソームに運ぶ(オートファジー):

  • マクロオートファジー: 細胞質が膜で包まれてリソソームと融合する。
  • ミクロオートファジー: リソソームの膜が内側にくびれて細胞質を少量取り込む。
  • シャペロン介在性オートファジー: 特定のタンパク質を特異的に選択してリソソームに運ぶ。まだあまり研究が進んでいない。

リソソームを使わない分解方法:

  • ユビキチン・プロテアソーム系: ユビキチンの標識が付いた特定のタンパク質(壊れたタンパク質など)を選択的にプロテアソームに運んで分解する

通常「オートファジー」といった場合には、マクロオートファジーのことを指します。そして、マクロオートファジーの仕組みは以下のようになっています。

  1. まず、細胞質の中に隔離膜(二重膜)ができ、それが細胞質の一部を取り囲んで袋(オートファゴソーム)を作る
  2. オートファゴソームとリソソームが融合する(外側の膜が融合する)
  3. リソソームの中の消化酵素がオートファゴソームの内膜と外膜の間に流れ込む
  4. 消化酵素がオートファゴソームの内膜を消化し、さらに内部に取り込まれた細胞質を分解する。
  5. 分解された結果できたアミノ酸などは膜を通り抜け、細胞質に戻る

細胞外の細菌などを取り込むエンドサイトーシスも似たような仕組みになっていて、細胞の外側の膜が細菌などを取り込みながら細胞内に落ち込み、袋(ファゴソーム)を作ります。それが、オートファジーと同じようにリソソームと融合して内部の細菌などが分解されます。

マクロオートファジーの面白い特徴は、分解する対象はランダムに適当に選ばれているということです。ですので、まだ正常なミトコンドリアなども取り込まれて分解されてしまうこともあります(一部、分解するものを識別しているのではという研究もあるそうですが)。

部屋の掃除で考えると、ゴミだろうがなんだろうが部屋の一角にある物を全部集めて強制的に捨ててしまい、必要なものがあれば新たに買い直すというようなものですね。何がゴミか選別する必要もないですし、その場所は確実に綺麗になります。一見いい加減に見えて、意外と有用な掃除戦略なのかもしれません。

オートファジーの役割

オートファジーが何に役立っているかを知るには、オートファジーが働かない細胞を人工的に作り出すことで、明らかになりつつあります。

現在分かりつつあるオートファジーの役割は、次のようなものです。

  • 飢餓に耐える
  • 発生における大規模なタンパク質の入れ替え
  • 寿命の長い細胞内の浄化
  • 細胞内に入ってきた細菌やウイルスの分解
  • 免疫の抗原提示

オートファジーの発見

今回ノーベル賞を受賞した大隅博士は、酵母(出芽酵母)の細胞を使って、上で説明したようなオートファジーという現象が細胞内で起こっていることを発見しました

酵母や植物の細胞には、液胞と呼ばれるリソソームと似た性質をもつ小器官があります。リソソームよりは遥かに大きく(なので観察しやすい)、消化以外の機能も担っています。

大隅博士は、液胞の分解酵素が欠損した異常な酵母細胞を入手し、顕微鏡で観察しました。そして、酵母を飢餓状態に置いたとき、液胞の中に顆粒状のものが激しく動いていることを発見しました。本来ならば、消化酵素で分解されていたはずのものを見ることが出来るようになったためです。

解析によって、その顆粒の中には、細胞質と同じ成分が含まれていることが分かりました。また、ミトコンドリアもその中に含まれていたことから、顆粒は確かに細胞質から来たことが示されたのです。

本では、出芽酵母が実験対象としていかに優れているかや、出芽酵母の興味深い生態(性がある。一倍体と二倍体を行き来できる)も紹介されていますが、省略します。

オートファジー不能生命の誕生

上の実験では、液胞の消化酵素は欠損していたがオートファジーの機能自体は働いている細胞を使用していました。

次に大隅博士が行ったのは、オートファジーの機能自体を持たない細胞を作り出して、オートファジーの生命における重要性や、オートファジーを司っている分子や遺伝子を特定することです。

(酵素欠損細胞自体もオートファジーの機能を完全には持たないわけで、どうしてそちらでオートファジーの持つ役割を調べなかったのかは、本からは読み取れませんでした。)

大隅博士の研究グループは、遺伝子に人工的に突然変異を引き起こした酵母細胞(オートファジーの有無を観察できるように上記の液胞酵素欠損細胞を使用)の中に、オートファジーが出来ないものがいないかをしらみつぶしに調べていきました。

そして、遂にオートファジーが出来ない酵母細胞「apg1変異体」を生み出すことに成功しました

オートファジーが出来ない酵母細胞「apg1変異体」で分かったこと

  • apg1変異体は生きている → オートファジーは酵母の生存には必須ではない
  • 飢餓状態での生存日数が短くなる

オートファジーが出来ない細胞では、飢餓状態に対応するために必要なタンパク質の合成が追いつかないため、早死してしまうらしいことが分かりました。

また、出芽酵母の二倍体は飢餓状態になると減数分裂して休眠状態の一倍体の胞子4つになるが、オートファジーが出来ない二倍体は胞子を作ることが出来ないことも分かりました(正確な理由はまだ分かっていない)。

オートファジー遺伝子の同定

次に大隅博士らが行ったのは、オートファジーを担っている遺伝子の特定です。

そして、apg1変異体の遺伝子を解析することにより、ある遺伝子に傷がついていることが判明しました。

博士らは、この遺伝子をAPG1と命名しました。この遺伝子は、ある種のリン酸化酵素をコードしていて、オートファジーを引き起こす誘導役として働いているのではないかと考えられたそうです。

さらに大隅博士らは、飢餓状態で死んだ細胞が赤くなるように工夫して、効率的に3万8000種類もの変異体を検査することにより、14種類の遺伝子を特定したのです。

この研究は1994年に「FEBS Letters」という雑誌に小さな論文として発表されましたが、当初はあまり注目されませんでした。

しかし、オートファジーの研究が盛んになった今では、この時の論文がオートファジー研究史上最も価値のある論文として認められているそうです。

細胞中で起こっているこれだけ重要な働きを発見し、その遺伝子を特定までしたというのですから、ノーベル賞に値するというのも納得できます。

その後、さらに多くのオートファジー遺伝子が発見され、(本書が書かれた時点で)ATG1 ~ ATP35までの遺伝子が発見されているようです(大隅博士の付けたAPGという名称は後にATGとして国際的に名称が統一された)。

今試しにGoogleで検索してみたところ、現在ATG42くらいまでが発見されているようですね。研究はかなりの勢いで進んでいるようです。

酵母から哺乳類の研究へ

酵母のような比較的単純な生物で起こっているオートファジーが、我々人間などの哺乳類でも起きているのかということは、当然湧き上がってくる疑問です。

幸運だったのは、当時世界では、マウスやヒトのDNAの解読が進んでいたいたことです。

酵母で特定された遺伝子の配列と似た配列の遺伝子がマウスやヒトにも存在することが分かり、それらがオートファジーに関係していることが分かったのです。

この頃から、オートファジーの研究に加速度的に進むようになったということです。

やはり、自分を含めた哺乳類でもそれが起きているということが分かると、注目度も高まりますよね。

しかし、本書でも書かれていますが、最初に酵母という実験のし易い生物で大隅博士が十分に調べ尽くしていたからこそ、その後の爆発的な発展に繋がったとも言えます。

生物の研究では、よく酵母とか大腸菌とかで実験しましたという話を聞きますが、そういう理由があるのだと改めて理解しました。

哺乳類のオートファジーの役割

当然、人間でいきなり実験するわけには行きませんから、マウスやラットなどの生物で、オートファジーがどのような役割を担っているかが調べられました。

その結果わかったのは

  • マウスでも、飢餓状態になると肝臓や腎臓などの臓器でオートファジーが起きる

ということです。

また、この頃オートファジーを観察する方法に革新が起きました。2008年のノーベル化学賞の対象となった下村脩教授らのクラゲの蛍光タンパク質(GFP)を使って、オートファゴソームを緑色に光らせるということができるようになったのです。

その方法とは、オートファゴソームに結合していることが知られていたLC3というタンパク質の遺伝子と、GFPの遺伝子をつなぎ合わせ、それをマウスの受精卵に導入するというものです。そうすると、全身でGFP-LC3というタンパク質が作られるマウスが誕生します(こういうマウスをトランスジェニックマウスと言うそうです)。このマウスの細胞がオートファジーを起こすと、GFP-LC3のLC3の部分がオートファゴソームとくっつき、オートファゴソームがGFPの働きで緑色に光るというわけです。

これにより、電子顕微鏡を使わなくても、体のどこでオートファジーが起こっているのかが簡単に分かるようになったのです。また、細胞を生きたまま取り出してリアルタイムで観察する「ライブ観察」が可能になりました。

この方法によって分かったのは

  • オートファジーは、神経細胞以外の全身の細胞で起こっている
  • 新生仔時期(生後6時間)に盛んに起こっている

ということです。

たとえ飢餓状態でも神経細胞だけはそのままを維持されるというのは、神経が破壊されてはちゃんとした行動が取れなくなることを考えれば、当然といえば当然と言えますね。

また、マウスの子どもはお母さんのお腹の中にいる間は、胎盤を通して栄養を豊富に得ていますが、生まれた途端その経路が絶たれるわけですから、極端な飢餓状態と言ってもいいでしょう。その時期にオートファジーが盛んに起こっているというのも、当然といえば当然かもしれません。

次に行われたのは、オートファジーが働かないノックアウトマウスを作って、そのマウスがどうなるかを調べることです。

  • オートファジーが行えないマウスは、生後12時間でほぼ全てが死亡する

ということです。

以上で、ようやく本書の半分の内容です。これ以上書くと記事がさらに長くなってさ煩雑になりましすし、書くのも少し疲れてしまいましたので、興味のある方は本書をぜひ読んでみて下さい。

受精卵で起きているオートファジー、ミトコンドリアの分解とオートファジー、神経細胞で起きているオートファジーと病気の関係、オートファジーとガンの関係、選択的オートファジー、免疫系とオートファジー、と面白い話題が満載です。

まとめ

水島昇著『細胞が自分を食べるオートファジーの謎』を読んで、今年のノーベル医学生物学賞を受賞した大隅良典教授のオートファジーの研究について、勉強してみました。

それにしても、生物ってよく出来ているなあと思いました。タンパク質の分解一つにしても、様々な経路が混在していて、システムとしてはパッチにパッチをあてたソフトウェアのようですが、それでもちゃんと動くシステムになっています(まあ、病気があるということは欠陥だらけだともいえるのかもしれないのですが)。

本書は、オートファジーの入門書としても分かりやすかったですし、その研究を追う過程で、生物学における多くのトピックが扱われているので、生物学の面白さに触れるのにもよい本だと思いました。本書の出版は、2011年であるため、日進月歩のこの分野では、本書が出た後に明らかになったことも多いでしょう。今後のオートファジーの研究の進展が楽しみです。