前の記事で書いたことを有言実行ということで、万葉集の本を買って読み始めてみました。
取り敢えず本を買いました
アマゾンで評価の高い本です。
本の体裁は、文庫本サイズで上下段に分かれており、上段には漢字かな交じりの読み下し文と原文が、下段には歌の意味や単語の意味と注が載っています。すごい情報量です。
難点は、情報を詰め込むために字が小さくて読みにくいこと。もう少ししたらルーペが必要になりそうです。高齢化が進んでいく時代には、もう一段大きいフォントで出版するのがいいような気がしました。
Kindle版もあるのですが、そちらは評判が悪いです。このような特種なフォーマットの本の電子化の技術はまだまだのようです。電子書籍なら拡大縮小が原理的に簡単ですから、作り方によっては紙の書籍よりも便利になる可能性があるはずです。今後の出版技術の発達に期待します。
さて、前置きはこのくらいで、早速読み始めてみました。
万葉集最初の歌は天皇のナンパの歌?
最初の歌(原文)は以下の通りです。読み下し文とちゃんとした口語訳を知りたい方は上記の本でご確認下さい。
籠毛與 美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持
此岳尒 菜採須兒 家吉閑 名告紗根
虚見津 山跡乃國者 押奈戸手
吾許曽居 師吉名倍手
吾己曽座 我許曽者 告目 家呼毛名雄母
まずは漢字の勉強。
- 「與」は「与(ヨ)」の旧字体。
- 「尒」は「爾(呉音=二)」の同字です。
- 「兒」は「児」の旧字体。
読み方を付すと
籠毛與 美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持
こもよ みこもち ふくしもよ みぶくしもち
此岳尒 菜採須兒 家吉閑 名告紗根
このおかに なつますこ いえきかな なのらさね
虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居 師吉名倍手
そらみつ やまとのくには おしなべて われこそおれ しきなべて
吾己曽座 我許曽者 告目 家呼毛名雄母
われこそませ われこそは のらめ いえをもなをも
まず、和歌のように5・7・5・7・7のようになっておらず、面食らいます。
意味は私の言葉で書いてみると
籠よ、良い籠を持っていますね。掘串(土を掘るためのヘラ)よ、良い掘串を持っていますね。この丘で菜摘をしている娘さん。家はどこですか。名前を教えて下さい。「そらみつ」の大和の国は私が征服し君臨して、私が支配し治めています。私こそ家と名を名乗ろう。
言わば、ナンパの歌のように聞こえます。この歌には
泊瀬朝倉宮御字天皇代
(はつせの あさくらのみやに あめのした しらしめしし すめらのみことの みよ)
天皇御製歌
と前書きがあり、「泊瀬の朝倉宮で天下をお治めになっていた天皇の時代 天皇のお作りになった歌」という意味になります。これは、雄略天皇のことを意味するのだそうです。
天皇の歌を最初に持ってくる気持ちは分かるのですが、何故この歌だったのでしょうか。むしろ、次に来る二番目の歌(大和には〜)の方が無難な気がします。
という気持ち悪さは多くの人が感じるらしく、ネットを探すと、何か別のことを暗示しているのではないか等々、色々な解釈を見つけることができます。
ちなみに「泊瀬(はつせ)」は現在の奈良県桜井市黒崎天の森付近であると言われているそうです。この近くには有名な「長谷寺」があって、「長谷=泊瀬」とも言われています。場所は、奈良県桜井市の東、三輪山の南の少し谷に入ったような場所です。
近くに最古の神社といわれる大神神社もあることから、当時はここらへんが中心地だったのでしょう。
ちなみに、菜摘をしている娘さんは、土を掘る道具を持っているんですね。掘る必要がある山菜を考えると、山芋とか百合根でしょうか。そうすると、春の歌とされているこの歌が秋の歌になってしまいますね。あるいは、春の大根かニンジン的なものを掘っていたのかもしれません。
現代に万葉集を読める幸せ
上の歌の例を見れば分かりますが、原文でははっきり言って何が書いてあるか分かりません。同じ音を表すのにも、違う漢字が使われたりしています。これは、当時の発音を反映しているとか、漢字そのものの意味も汲んだ上で使い分けているとかいう説があるそうです。それが、今、何故読み下し文や意味が大体分かるかというと、過去の多くの研究のおかげです。
言わば、暗号解読です。平安時代には既に意味が分からなくなっていたらしく、その頃からの膨大な研究・解読の結果、今あるかたちで現代人にも読めるようになっているということです。
暗号解読と言えば、下の本はおすすめです。普通の暗号の話に加えて、ロゼッタストーンや線文字Bの解読の話も載っています。

- 作者: サイモンシン,Simon Singh,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/06/28
- メディア: 文庫
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また、文字の起源については、下の本もとても面白かったです。

- 作者: アンドルーロビンソン,Andrew Robinson,片山陽子
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 2006/02
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これからどう読んでいくか
冒頭の歌だけで、こんなに色々思いを馳せてしまいました。今後の読み方ですが、このように
- 音読して、歌の印象を味わいながら読んでいく
- 地名などが出てきたら、その場所を調べて思いを馳せてみる
- 関連する歴史的な出来事にも思いを馳せてみる
こんな感じで、進めていきたいと思います。
音読ですが、歌ですのでやはり声に出して味わうのがいいと思っています。ところで、短歌とか長歌の読み上げって、当時どのくらいの速さだったのでしょうか。百人一首のように結構ゆっくり読み上げていたものなのでしょうか。