この前のKindleポイント50%還元セールで買ったこちらの本を読み終わりました。本書は、NHK教育で放映している番組「100分de名著」で初期仏教(本書では「釈迦の仏教」と呼んでいる)の経典『ダンマパダ』を取り扱った回を書籍化したものです。
初心者向けのやさしい入門書
本書は、現在日本で広まっているいわゆる大乗仏教系の教えではなく、その元となった釈迦の教え(初期仏教)へのやさしい入門書になっています。
私が仏教に興味を持つきっかけになったのは、魚川祐司さんの『仏教思想のゼロポイント:「悟り」とは何か』という本でした。
この本をきっかけとして仏教とか瞑想とかに興味を持ち、色々な関連する本を読んできましたが、本書はその中でも特に初心者に分かりやすい説明になっているように思いました。
この本の著者である佐々木閑さんは、もともとは科学者を目指していたという方だそうです。本書の後半には、仏教と科学の共通性について脳科学の研究者の藤田一郎さんと番組上で行なった対談が収録されていて、そこでの議論も興味深いです。
釈迦が出家したきっかけは死の恐怖?
本書を読んでいて初耳だったのは、釈迦が出家をしたきっかけです。
釈迦はカピラヴァットゥという国の王子として生まれましたが、生まれた時に占い師に「この子は将来最高の王になるでしょう。しかし、場合によっては出家して最高の悟りを開くかもしれません」と言われたそうです。驚いた王は、そうなっては大変だと、王子にあらゆる楽しみを与え、美しいものだけを見て育てました。
あるとき、大人にになった釈迦は、馬車で遠出をしたときに、ヨボヨボの老人、病で苦しんでいる人、亡骸に出会います。御者に「これは私にも起こりうる事なのか」と問うと、御者は「そうだ」と答えます。
釈迦は大変な衝撃を受けて、「いずれ死ぬこの人生に何の意味があるのだろうか」と思い悩むようになってしまったのだそうです。そして、釈迦は29歳で出家して、修行の道に入っていくのです。
いやいや。死の恐怖って普通の人なら子供の時に散々考えて大人になったら乗り越えているじゃないの? 私も子供の時に「自分が死んだらどうなるの」とか「癌になったらどうしよう」とか考えてしまい悶々として眠れない時期がありましたよ。でも大人になった今は、そんなことで夜眠れなくなることはありません。
釈迦は、かなり過保護に育てられたので、大人になって死の恐怖を初めて感じることになったのでしょうね。それは、悩むでしょう。
私の死の恐怖はどこにいった?
でも、この本を読んで気付きました。大人になった私は、死の恐怖を克服したのではなく単に考えないようにしていたのだと。子供の頃の死に対する異常な恐怖感から逃れるために、「それについてはもう考えない」という結論が自己防衛として脳の中に自然にできたのでは無いでしょうか。
そして、今あらためて死について考えてみると、子供の時と同じような「自分が死ぬ時ってどんな感じなのだろう」という悶々とした感情が蘇ってきたのです。
とりあえず円滑に生きるために封印してきた死の恐怖は、人生の後半戦でまた沸き起こり、本当の結論に達するべきものなのかもしれません。
ご存知のように、釈迦はその後悟りを開き、老・病・死の恐怖やその他の煩悩から完全に開放され、輪廻から開放された涅槃の境地に至るのです(釈迦の時代には生まれ変わりが信じられており、釈迦も否定していない。永遠に苦しみから逃れられない輪廻からぬけ出すのが究極の目標だった)。
釈迦が悟りを開き、後世に大きな影響を与える思想にまで達したのは、大人になって初めて死の恐怖を経験するという特種な育ち方のおかげだったのかもしれないと勝手に想像してしまいました。
ナイトスタンド・ブディスト
また本書では、アメリカを中心にナイトスタンド・ブディストと呼ばれる出家をしないで夜自宅で瞑想などをする仏教徒が最近増えているということが紹介されています。
仏教で重要視するものに「仏法僧」というものがあります。「仏」は釈迦、「法」は釈迦の教え、「僧」は修行者の集まりのことで、出家して修行することの重要性を表しているそうです。
世の中の雑音の中ではなかなか悟れないから、目的を同じくする人や先達と一緒に俗世間から離れて修行することが重視されたわけです。しかし、インターネットなどの情報技術が発達した現代では、出家しなくとも本やインターネットから独習することも優しくなりました。
ナイトスタンド・ブディストのような動きは、新しい時代の新しい仏教の興りと言えるのかもしれません。
まとめ
『100分de名著 ブッダ真理のことば』を読んだ感想を書きました。初心者向けのわかりやすい解説ながら、なかなか読み応えのある本でした。
ちなみに、テレビの「100分de名著」の4月のテーマは、鎌倉時代に浄土真宗をおこした親鸞の教えを弟子の唯円が書いたとされる『歎異抄』になっているようですね。
どうも最近、宗教が見直されているのでしょうか。本書にもありましたが、東日本大震災が影響しているのかもしれません。振り返ってみると、私の考え方や人生もあの時から次第に変わり始めたようにも思うのです。