「意識」の問題は多くの哲学者や科学者を悩ませてきた問題で、科学の最後のフロンティアとも言われます。「自分に意識はある」と個々の人は実感しているのに、実際に脳のどの部分のどのような活動が意識に対応しているのかについては、未だ分かっていません。
本書は、意識に関する研究について、いくつかのトピックを一般の読者向けに解説したものです。初耳の話もあってなかなか勉強になりましたので、紹介されていたトピックをいくつか紹介してみます。

- 作者: 科学雑誌Newton
- 出版社/メーカー: 株式会社ニュートンプレス
- 発売日: 2015/07/08
- メディア: Kindle版
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まず冒頭では、意識を解明しようという研究には主に下のようなアプローチがあることが述べられます。
- ニューロンなど脳の構造から迫る
- 覚醒/眠りなど認識レベルの違いから迫る
- 無意識から迫る
- 自由意志から迫る
- 「視覚の気づき」から迫る
- ロボットを作ることによって迫る
これらそれぞれのアプローチにおける研究手法や注目する現象が、以下のページで紹介されていきます。
動物は意識を持つのか
- 転がる石や炊飯器には意識を感じない
- では、カマキリや犬やチンパンジーに意識はあるか
- 同じ人間である他人に意識はあるか
私は、カマキリには「魂」的なものは感じますが、「意識」は感じません。犬には意識を少し感じます。この感じ方の違いは何かというと、「意図」や「感情」をもって行動しているかということなのではないかと思います。犬を飼ってみると、そんな感じがするんですよね。単に人間が思い込んでいるだけかもしれませんが。
脳の構造
- 意識に関わりが深いのは大脳皮質だと考えられている
- 睡眠と覚醒の調整は脳幹が行っている
- 運動などの無意識の行動には小脳がかかわっている
- 嗅覚以外の視覚・聴覚・味覚は視床を経由して大脳皮質に送られる
- 中脳は、眼球や姿勢のための反射運動を担っている
- 中脳にある上丘は大脳皮質を持たない原始的な生物の視覚の中枢となっている
嗅覚だけが他の感覚と異なる経路をとるということが興味深いです。私は、昔から匂いから記憶が呼び起こされるという経験をしていて、嗅覚には何か特別なものがあるのではないかと感じていましたが、脳の構造的にもそうだと分かって、なるほどと思いました。
睡眠と意識
- 睡眠中は意識があるといえるのか
- ノンレム睡眠中は無いと言って良い
- レム睡眠中は脳の一部の活動は活発だが、意識があるとはいえない
- 夢遊病の例からすると、行動する時に必ずしも意識は必要ない
- 意識とは「するべきでない行動を制限する」という機能である可能性
眠っている間は意識が無いとすると、起きた時に意識をオンにする機構があるはずです。それと意識はどちらが上位なのだろうか。そんな疑問が浮かびました。
また、朝起きた時、自分の意識は昨日の自分の意識と同一だと感じます。それは何故でしょうか。
昨日の自分と今日の自分は同じなのでしょうか。単に前の日までの記憶を受け継いだ別の意識なのでしょうか。
10年前の自分と今の自分が同じかと問われれば、結構悩んでしまいます。多くのことが変わったし、考える事も変わりました。
考えれば考えるほど、分からなくなります。
意識と無意識
- 片方の脳で障害が起きると、視野の半分が失われる「半盲」になる
- 半盲でも、見えていない視野の情報が意識できない形で存在する
- 例えば、見えない視野にあるボールの位置を「なんとなく」分かったりする
- この現象を盲視と呼ぶ
- 盲視には、原始的な生物で視覚を司っている「上丘」が関わっているらしい
盲視という現象は初めて聞きました。興味深い現象ですね。
そういえば、最近読んだ瞑想の本では、原始的な脳が引き起こす煩悩を大脳がコントロールできるように脳のトレーニングするのが瞑想であると言っています(瞑想の中の「妄想を止め、考えない」という部分は大脳で大脳をコントロールすることに対応しているのかもしれません)。また、それができるようになった状態が「悟り」であるというようなことを言っていました。

自分を変える気づきの瞑想法【第3版】: ブッダが教える実践ヴィパッサナー瞑想
- 作者: アルボムッレ・スマナサーラ
- 出版社/メーカー: サンガ
- 発売日: 2015/07/09
- メディア: Kindle版
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原始的な脳と大脳皮質の関係には色々面白いことがありそうです。
自由意志
- リベットの実験
- 指を動かすタスクで、被験者は自分が指を動かそうと思った時刻を覚える
- 指を動かそうと思った時刻よりも先に運動の司令信号が出ていた
- 意識とはチェック機構にすぎない可能性がある
この実験は結構よく聞きますが、本当に自分が動かそうと思った時刻を正確に報告できていたのか、少し疑問に感じました。
例えば、「針が12時のところに来たら動かそう」という意識が、針が12時の所に来るときより少し前に出てきて、その時に運動指令も出始めるのではないかと思います。そして、「針が12時の所で動かそうと思いました」と報告してしまうのじゃないかなあと。
専門家が色々検討しているのでしょうから、そうならないような実験設計をしているのかもしれません。
NCCを探せ
- NCC (Neural Correlates of Consciousness = 意識と相関する脳活動)を探すのが重要
- 左右の目に違う映像を見せたらどうなるか
- → 数秒毎に切り替わって見える:両眼視野闘争
- 切り替わる時に働いているニューロンがあればNCCではないか
- 一次視覚野がNCCかは研究者で意見が分かれている
この章で紹介されていた「簡単に両眼視野闘争を体験する方法」を実際に試してみましたが、とても面白い現象が体験できました。興味のある方は是非試してみてください。
ロボットと意識
- ファイファー博士の”片付けロボット”
- → 障害物にぶつかったら反対側に曲がるというルールだけで「片付け」という「意識的」な行動になる
- 國吉教授の”赤ちゃんロボット”
- → プログラムによらずに、寝返りや”はいはい”という「意識的」な動作をする
意識(のように見えること)の原因は意外と単純なのかもしれません。
意識のハードプロブレム
- クオリア問題(あなたの「赤」と私の「赤」は同じか)
クオリアの話でよく言われる「あなたの「赤」と私の「赤」は同じか」という問い。
人間の網膜には赤い色に反応する細胞が共通してあるわけで、そこから繋がる大脳の中にも何らかの構造的共通性があって、赤いものを見た時に同じように反応する人間共通の構造があると考えることもできるはずです。
クオリアという言葉は良く聞きますが、何を問題にしているのかよくわからないなあというのが個人的な印象です。
まとめ
科学の最後のフロンティアとも呼ばれる「意識」の問題について読んだ『Newton 脳と意識: 最先端の脳科学が,最大の謎に挑む』の内容をまとめてみました。個人的にも興味のある分野ですので、機会がある毎に勉強していきたいと思います。