この前本の整理をしていて出てきたこの本を再読していました。発酵の魔術師小泉教授が、発酵を使った常識破りの数々の発明や、発酵に関連した様々なトピックを解説した一冊です。

- 作者: 小泉武夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: 単行本
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本書の著者の小泉武夫さんは、長年東京農業大学の教授として発酵の研究をされていた方です。一時期は、テレビなどにもよく出て、発酵食品の紹介などをされたりしていましたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
本書は、そんな小泉教授が、発酵を使って発明した数々の新しい食品などを、その発想方法とともに紹介した本です。
発酵でマイナスをプラスに変える
例えば、第一章「マイナスからプラスに変える」では
- コメからチーズをつくる
- カボチャから砂糖をつくる
- 麦から酢をつくる
- 米ぬかから天然の旨味調味料をつくる
- 鰹節の削りかすから超高級天然フレーバーをつくる
- 野菜で醤油を作る
- ワインの絞り粕からうま味調味料を作る
- 澱をわざと入れた濁りワインをつくる
- ブドウを気になったままワインにする
- 泡盛の残り粕から「もろみ酢」をつくる
- 吟醸香収集装置の発明
など、発酵の力を使って従来捨てられていたものを利用する方法がたくさん紹介されています。
大学の先生なので、発酵を工業利用して天然調味料を作るなどの話も多いです。そこらへんは、私の趣向とは合わない所もあるのですが、これらの発明が、今の日本の食生活に大いに役に立っていることも事実で、とても興味深い話ではあります。
個人的には「カボチャから砂糖をつくる」という話が特に面白かったです。その過程で出来る、「カボチャ甘酒」は、飲んでみたいと思いました。要するに、デンプンを含んでいる食材と麹を混ぜて保温すると、糖ができて甘酒になるわけです。
調べてみると、けっこうやっている人もいるみたいですね。
下の記事で紹介したように、最近の麹の自作も出来るようになったので、このカボチャ甘酒はぜひ試してみたいです。
最後の吟醸香収集装置というのは、よく日本酒の勉強をすると出てきて、そして大抵悪者とされている、「ヤコマン装置」のことです。日本酒の醸造過程でアルコールとともに揮発してしまう良い香りの成分を集めて液体化して、後から添加できるようにするための装置です。
このヤコマンという名前は、開発者の「山田(YAMADA)」「菰田(KOMODA)」「真野(MANO)」の頭文字を取ったと言われています。小泉教授が若い時に仕えていたのが、この山田正一教授だったのだそうです。
こう言う装置は、個人的には、やはり使わないでほしいなあという気持ちが強いです。最近は、吟醸香の発生能力が強い酵母が開発されたので、あまり使われてないという話もありますが、実際の所は知りません。
しかし、この装置の原理をビールに応用することで、ノンアルコールビールがつくれるようになったとのこと。これもビール好きからすれば、よろしくないことなのかも知れませんが、世の中に役に立っているということも事実です。
工業化の側面が強いとはいえ、小泉教授の発想は、常に発酵に根ざしていて、出来上がったものは天然と言っていいものです。ですので、どこかほのぼのとのしていて、読んでいて、嫌な気持ちになりません。
この章で特に勉強になったのは、小泉教授が挙げている発想するときの基本です。それは、
- 独創性がなくてはいけない
- 理論武装(正当化、大義名分)がないといけない
- 受け皿が(売れる見込み)なければやってはいけない
- ネーミングがよくなければいけない
というものです。この原則は、かなり本質的なもので、どんな分野でも応用できるものではないかと思いました。
伝統か技術か
食に関しては、伝統をとるか技術をとるかの選択はなかなか悩ましいものですが、個人的には、やはり、手づくりや伝統製法のものを応援していきたいです。というのも、食の多様性というものは、やはり、残って欲しいと思うからです。
貧しかったはずの昔の方が、各地方、各家庭で独特の食品が作られていて食に多様性があったというのは、皮肉な話ではないでしょうか。もちろん、交通が不便だった昔の人は自分の地方のものしか食べられなかったのですし、貧しさ(=制約)が各地の独特の食文化を生む原因でもあったとおもうのですが。
個人的には、世の中がさらに豊かになれば、食の多様性を多くの人が楽しめる時代になると思いますし、実際そういう方向に向かっている気がします。今では、ネット通販で各地の名産をお取り寄せして食べることが出来るようになってきましたし、本格的なインドカレーも街で手軽に食べられる世の中になりました。
後半も、発酵や酒に関連した面白いトピックが満載
本書の後半の、第二章、第三章も、発酵や酒に関連した面白いトピックが満載です。
- 灰で豪商になった男
- 夏の甘酒売り
- 鯖の熟鮓(滋賀県朽木)
- 小便で爆薬の原料つくり(富山県五箇山)
- 酒屋の水を売る
- 江戸時代の酒飲み大会で19.5升も飲んだ男の謎
- 行列のできるラーメン屋の秘密
- 寿司屋の煎酒
- 発酵唐辛子「かんずり」
- 世界で唯一の固体発酵: 中国の白酒(パイチュウ)
- 生ごみから完全堆肥を作る
- 豚の血を使った酒の熟成: 中国の西鳳酒(シイフォンチュウ)
- ラムをイギリスで熟成させる理由
特に面白かったのが、江戸時代の酒飲み大会の話。江戸時代は日本酒をアルコール度数4~5%になるくらいまで水で割って飲んでいたらしく、割っても味が薄くならないような濃い味の酒を作っていという話です。
実際に当時の作り方で再現したものが、「復古酒」という名前で売りだされたそうです。調べてみると、今でも買えるようです。ちょっと飲んでみたいですね。
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- メディア: 食品&飲料
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まとめ
本を整理していて出てきた、小泉武夫著『発酵は錬金術である』を再読しました。この本は、数年前に読んだ本なのですが、また楽しく読むことができました。
私が発酵食品に興味を持ったのは、この本の前に読んだ、小泉教授の『発酵―ミクロの巨人たちの神秘 』という本の影響が大きいです。

- 作者: 小泉武夫
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1989/09/01
- メディア: 新書
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本書とネタがかぶるところもあるのですが、こちらの本もおすすめです(どちらかと言うと専門的な本です)。しかし、この本、今探してもどうしても見つからないのですよね。引越しのゴタゴタで何処かにいってしまったようです。
あと、こちらの小泉教授のサイトを見つけたのですが、発酵食品を始め食べ物の情報が満載で、楽しそうですね。