現代社会は、外向型社会です。とういうのも、世の中の75%の人が外向型の人間だからです。内向型の人間にも社会的に存在意義があるからこそ存在しているにもかかわらず、今の社会は内向型の人間がとても生きにくい社会になっています。本書では、内向型の人間が、そんな外向型社会を快適に生きていくためのヒントが丁寧に解説されていました。
内向型の人間が生きにくい社会
今の社会は、積極的に外に出ていって人と付き合っていくことが善しとされる社会です。著者の住んでいるアメリカではそれがとても顕著です。
社会がそうなってしまっている理由は、人間の75%は外向型であるためです(日本でも割合は同じでしょうか?)。そのために、残り25%の内向型の人間は、肩身の狭い思いをしながら生きていかなければなりません。
学校の教育では、外向型の人間が賞賛されます。例えば、「友達と一緒に元気に遊びなさい!」「運動会や合唱などのイベントも楽しいでしょ?!」といったように。そして、そのような外向型の人間になることが良いことであるということが植え付けられます。
また、家庭でも、子供が内向的だと親は自分の子供は大丈夫だろうかと心配したり、矯正しようとします。そして、内向型の子供は、自分は外向型にはどう頑張ってもなれないという罪悪感のようなものを抱いて育つことになります。
大人になってからも、親戚付き合い、旅行、社交パーティーへの参加、職場の会議での積極的な発言やアピールなどなど、内向型が不得意とすることが盛り沢山です。
でも、内向型であるというだけで、そんな苦しい人生を送らされるのは酷いことではないでしょうか!?
本書の著者自身、強い内向型の性格で、とても苦しんでいたそうです。
そんな著者が、外向型の社会の中でそこそこ快適に生きることが出来るようになった経験や、カウンセラーとして内向型の人と関わった経験を元に、内向型の人間が外向型の社会で生き抜いていくためのヒントを書いたのが本書です。
脳科学の観点から見た外向型・内向型の違いから始まり、カップルの場合に外向型・内向型の違いにどう対処するか、親子の場合にどう対処するか、職場でどう対処するか、パーティーをどう乗り切るか、などとても丁寧に説明がされています。
私も、子供の時から自分は内向型だという自覚があり、それで随分悩んできました(本書にある、内向型判定でも、20点/30点の内向型と判定されました)ので、本書で書いてある事にはとても共感できました。
外向型と内向型の違い
まず、本書で特に前提とされ、強調されていることは
- 外向型、内向型は、大部分が先天的に決まる「気質」のようなものである
- 外向型・内向型とはっきり二つに分けられるわけではなく、いろんなレベルがある
ということです。
先天的に決まる気質は、なかなか変えることができませんので、無理に変えようとすることは苦痛ですし、実りも多くありません。したがって、自分の気質を受け入れた上で、社会で快適に生きる方法を習得し、それぞれが自分の気質に根ざした強みを生かして社会に貢献することが必要になります。
品性とは、その人が生まれながらの気質をどう用いるかだ。それは私たちがコントロールしうる領域なのである。
また、外向型・内向型には、色々なレベルがあるので、ある時には外向型の性格が、ある時には内向型の性格が現れてきるという人もいます。
本書では、内向型が強い人に向けたアドバイスが多いですが、それぞれの人が自分の事情に合わせて、応用する必要があるということです。
さて、本書の説明を元に、外向型と内向型の違いをまとめてみると下のようになります。
外向型:
- ドーパミンへの感受性が低い(D4DR遺伝子が長い) = より強い刺激が無いと快感にならない
- アドレナリン(交感神経系)経路を多用(ドーパミンを放出するため)
- 脳内の経路が単純で短い
- 考える前に行動(行動力がある、短絡的)
- 多く経験したがる(広く浅く)
- 活発に活動し、人と交わることによって、元気になる
- パーティー、スポーツ観戦、せわしない旅行などが好き
- 睡眠障害、消化障害、心臓病、免疫系の疾患になる危険性がある
内向型:
- ドーパミンへの感受性が高い (D4DR遺伝子が短い) = 強い刺激がなくても良い
- ノルアドレナリン経路(副交感神経系)を多用
- 脳内の経路が複雑で長い
- 考えがまとまってから行動(行動力がない、思慮深い)
- 経験したことについて多くを知りたがる(狭く深く)
- 1人になることで、元気になる
- 読書、映画、じっくり楽しむ旅などが好き
- 人混み、電話すること、返品すること、即答などが苦手
- 鬱、やる気が無い、欲求不満になる危険性がある
左脳型・右脳型にも注意
また、この外向型・内向型の軸とは別に、左脳型・右脳型という区別もあります。
内向型でも、左脳型の場合には、エンジニアなどとして社会的に成功することも多く、なんとかやっていけている人も多いとのこと。
一番、辛いのは右脳型の内向型。創造性に富むが、他の人からはエキセントリックととられることもある。しかし、その才能が職能になかなか結びつきにくいのと、学校教育は左脳型優位に出来ているので、とても辛い思いをすることになります。
外向型・内向型で学説も変わってくる?
雑学的に面白かったのは、精神分析学のユングは、フロイトとアドラーと一緒に働いていたが、フロイトは「外向型の人」、アドラーは「内向型の人」だと評していたということ。そして、この三人は、意見の相違から袂を分かつ結果となったことです。
ちなみに、本書の著者は、ユングの考えを基礎にしているようです。
私が以前アドラーを読んで、しっくり来たのは、内向型の人が内向型の人に向けて考えた理論だったからかもしれませんね。
社会に関して、ある理論や論説が出てきた時に、それは外向型人間が言いそうなことなのか、内向型人間が言いそうなことなのか、注意を払ってみるということは有用かもしれません。一般性を求めるなら、そのどちらでも不完全だろうからです。
内向型が生きやすい社会に向けて
この本を読んで、より一層、内向型の人が罪悪感を抱かずに伸び伸びと生きていける社会を作る必要があると感じました。
最近は、インターネットの発達によって、内向型の人間が生きやすい社会になりつつあるように思います。今では、即答が要求される電話の代わりに、考える時間のある電子メールが使えますし、ネットを探せば、内向型の人間が自分以外にも沢山いるということも気づくことができます。
また、この本のような考え方を広めることにより、内向型の人には(内向型の思慮深さがそれに抵抗するかもしれませんが)「罪悪感を持つ必要はない。自分は今のままでいいのだ」という自信をつけさせ、外向型の人には(外向型の人間がそれができるほど思慮深いかどうか不安ですが)「世の中には内向型という人がいて、違うのだから違いを尊重する」ように啓蒙していく必要があります。
しかしながら、究極的には、内向型が生きやすい社会を作るためには、内向型人間の数を増やしていく必要があるのかなと思いました。外向型人間は、その気質のおかげで子孫を残しやすく、それが、外向型人間の数を増やし、社会を外向型社会にしているのです。
内向型人間も、内向型を理解するパートナーを見つけて、内向型人間をどんどん増やす必要があります(まあ、難しいですが…)。また、既に社会的に出世している内向型の人は、内向型の部下をうまく使い、引き上げていく必要があるでしょう。
内向型人間の逆襲は、もう既に始まっているのかもしれません。
まとめ
『内向型を強みにする』を読み終わったので、感想を書いてみました。
一つ、私の経験を言うと、内向型であろうが、年をとるにつれて「鈍感」にはなってくるので、生きにくさはだいぶ軽減されるということです。しかし、時が解決すると言っていてもしょうがないでしょう。本書のような本をもっと若いうちに読んでいたら、もっと充実した人生になっていたような気もします。
最後に話が脱線しますが、この本はページ数が結構多いので、読むのは疲れました。個人的な印象ですが、啓発系の本でも、欧米の著者は丁寧に(悪く言えば、くどくどと)沢山のページを書くようです。どうも、日本に比べて何事も理詰めで説得するという文化(強迫観念)が強いように感じます。個人的には、日本の啓発本のように要点だけ書いた薄い本の方が、読みやすいですし、多くの人にリーチ出来るので有用性はある気がしています。