どんなに素晴らしいアイデアでも人に伝わらなければ無です。一方で、都市伝説のように嘘ではあっても多くの人々に広まってしまうアイデアがあります。世界を良い方向に変えたければ、良いアイデアを多くの人に伝える必要があります。本書を読むと、どのように伝えれば、アイデアを人の心に焼きつけ、人の行動を変えられるかを、過去の事例を通して学ぶ事ができます。

- 作者: チップ・ハース,ダン・ハース,飯岡美紀
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2008/11/13
- メディア: 単行本
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アイデアの伝え方の重要性
本書で挙げられている良い伝え方のお手本とは次のようなものです。
- 「ポケットに入るラジオを作ろう」(ソニー創業者 井深大)
- 「60年代の終わりまでに人類を月に着陸させ無事帰還させる」(ジョン・F・ケネディ)
これらは、「素晴らしく、かつ、記憶に焼き付く伝え方をされたアイデア」の例です。
これが、例えば「世界最先端のラジオを作ろう」だったら、ソニーの社員達を奮い立たせてトランジスタを使ったラジオを作ることは出来たでしょうか。「宇宙関連開発を推進する」だったら、アメリカはソ連に宇宙開発でリードできたでしょうか。
また、古くから伝わる「ことわざ」やイソップ物語などの寓話も、真実性は多少劣るかもしれませんが、人間社会に対する洞察や教訓を心に焼き付く形で伝えている成功例です。
逆に「悪いアイデア、かつ、記憶に焼き付く伝え方をされているアイデア」の例は、都市伝説やデマなどです。
どんなに良いアイデアでも、伝え方が悪ければ広まりません。一方で、嘘でも伝え方が上手ければ、広まってしまいます。
ここに、伝え方の重要性があります。
世界を良くしようとしようとしている人は、アイデア自体に加えて、伝え方にも心を砕かなければいけません。
心に焼き付くアイデアの原則
本書では、伝わる(心に焼き付く)アイデアの共通点を以下のようにまとめています。
- 単純明快である(Simple)
- 意外性がある(Unexpected)
- 具体的である(Concrete)
- 信頼性がある(Credentialed)
- 感情に訴える(Emotional)
- 物語性がある(Story)
本書では、これらの英単語の頭文字をとって「SUCCESS」と呼んでいます。
各原則の詳細については本書を読んでいただきたいのですが、重要な事は、これらの原則は当たり前のように感じられてプロでも実践できていないことが多いことです。
一方、素人でもこの原則を頭に入れて自分の伝え方をチェックすれば、確実に伝え方を改善できます。
専門家が陥る罠
上記の原則に従ってアイデアを伝える上で、一番障害になるのが、著者が「知の呪縛」と呼ぶものです。
知の呪縛とは、自分に知識があるばっかりに、専門用語を使ってしまったり、抽象的な説明になってしまうことです。そうすると、アイデアに単純明快さは無くなり、具体性からも遠ざかることになります。
専門家と呼ばれる人達は、その分野の知識があるからこそ、アイデアを伝えることに関しては下手になっている可能性が高いわけです。
アイデアを伝える相手は素人だという視点が抜けてしまうわけですね。
この種の悪い例の宝庫は、政府や専門家がパワーポイントで作った「〇〇計画」の「ポンチ絵」とよばれるものでしょう。抽象的なスローガンとともに専門用語が総花的に並べられ、何を言いたいのか分からない資料ばかりです(伝えたい内容自体が酷いものである場合も多いですが)。
一方、知識を持たない素人は、知識があやふやであるからこそ、逆に上手く伝えることが出来てしまうという危険性もあります。都市伝説やデマなどはそういうところから生まれてくるのだと思います。
また、最初から人を騙そうとする人達もこの種のテクニックに長けていることが多いので注意が必要です。
しかし、専門家は都市伝説やデマや嘘を批判しますが、それらがはびこる原因が、自分たちのアイデアの伝え方が下手だからであるということを肝に銘じなければなりません。
結局は、自分のアイデア(主張)を伝えることが出来た方が勝者なのですから。
アイデアはどうやって見つければいいの?
ここまで読んでいただいた方は「伝え方のテクニックは分かった。しかし、良いアイデア自体はどうやって創りだしたら良いの?」と思うかもしれません。
確かに、本書の主眼はアイデア自体ではなく、アイデアの伝え方です。
しかし本書には、良いアイデアを創る強力な方法が一つ述べられています。
それは、「単純明快で、意外性があり、具体的で、信頼性があって、感情に訴え、ストーリーがあるもの」という原則に当てはまる事象を、日常からすくい上げるというものです。
人が一生に独創できるアイデアの数などたかが知れていますから、日常に転がっているアイデアの原石を見つけることに力を入れた方が良いということですね。
日常の事象ですから、具体的でストーリー性があるということは最初から満たしています。その他の用件を満たしているかをチェックして合格すれば、伝わる力の強いアイデアである可能性が高いわけです。
ただし、それもそんなに簡単なことではありません。常に自分の目的を頭に入れた上で、日常をしっかりと観察することが必要になるからです。
日常の真剣な観察は、経営者であれ、技術者であれ、研究者であれ、教育者であれ、誰であれ必要なことではないでしょうか。その点で、この「アイデアの原石を見つける」戦略は、意外と一般的な真理をついているのかもしれません。
まとめ
チップ・ハースとダン・ハース著『アイデアのちから』を読んだのでまとめを書いてみました。本書の著者の本は、以前、"Decisive (How to Make Better Choices in Life and Work)"という本を読んで、役に立つ内容をとても分かりやすく書く人たちだなと思っていました。この本も『決定力!』というタイトルで日本語訳が出ているようですので、興味のある方は読んでみてください。

- 作者: チップハース,ダンハース,Chip Heath,Dan Heath,千葉敏生
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/09/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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今回のこの本も期待に違わずとても役に立ちそうな内容でした。ブログの記事を書くのでも、仕事のアイデアを出すのでも、日常生活でも、本書で紹介されているSUCCESの原則を頭に入れておくことで、確実に伝わり方を改善できるような気がします。
この本でも出てくる物語性の重要性については、私が最近感じていたこととも一致しているなと思いました。
また、日常の観察については、はっきりと言葉には出来ませんが、最近興味を持っている瞑想や悟りとも関連性がある気がしています。
同じ著者のこちらの本も良さそうですね。

スイッチ! 〔新版〕― 「変われない」を変える方法 (ハヤカワ・ノンフィクション)
- 作者: チップハース,ダンハース,Chip Heath,Dan Heath,千葉敏生
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/08/23
- メディア: 単行本
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