今月に入り、九州霧島山の新燃岳が噴火しました。年初には、草津白根山、そして数年前の御嶽山の噴火と、素人目には日本の火山活動がここ数年活発になっているように感じます。本作『死都日本』(石黒耀著)は、まさに今回噴火した霧島山を含む一帯が、大カルデラを形成するような大規模噴火(破局噴火)を起こしたらどうなってしまうのかをリアルに描いた災害小説です。今回の新燃岳の噴火を契機にこの小説を知り、Kindle版を購入して読んだのですが、火山の描写がとてもリアルで、一気に読んでしまいました。
多くの人が知っているとおり、九州地方では過去に大規模な火山噴火が何度も起こっています。その噴火の特徴は大規模な噴火後に大きなカルデラを形成することで、阿蘇山のカルデラ、現在の鹿児島湾北部を作った姶良カルデラ、鹿児島湾南部を作った阿多カルデラなどが有名です。また、その南には海に隠れて殆ど見えませんが鬼界カルデラがあります。
これらの噴火は、残ったカルデラの大きさから分かる通り、とても大規模なもので、例えば阿蘇の噴火では火砕流がなんと海を渡って山口県に達したそうですし、鬼界カルデラを形成した噴火は、南九州にいた縄文人を絶滅させたと言われています。
そういえば、この前のブラタモリは鹿児島がテーマでしたが、薩摩藩が幕末に活躍できたのは破局噴火によって形成された種々の性質の違う石をうまく活用できたからという話になっていました。当然の話ですが、火山は大きな災害をもたらすが、同時に人々に大きな恵みを与えてくれてもいるわけですね。
さて、本書『死都日本』は、そんな九州に実在する加久藤カルデラを形成した火山が再び活発化し、現代日本で破局噴火を起こしたらどうなるかを描いた小説です。ちなみに、新燃岳を含む霧島山は、この加久藤カルデラの南縁に位置します。
本書では、上で書いたような九州の火山の知識や、火山災害についての知識が織り交ぜてあって、まずとても勉強になりました。そして、破局噴火が起きた場合に想定される災害についてもとてもリアルに描かれています。専門家からみてもリアルな描写になっているようで、Wikipediaによると著者の石黒耀さんは日本地質学会より表彰されているそうです。
小説ですので、当然、この噴火に対し主人公を含め日本の人たちがどう立ち向かっていくのかという話になっています。しかし、火山に近いところについては基本的に噴火の物理的な大きさにより決まる災害が無慈悲に襲いかかり、一瞬で全滅してしまうため、為す術はありません。近畿のあたりまでも、降灰による家屋倒壊、土石流などが無慈悲に襲いかかります。そして、噴火の影響は日本全体はもちろん、全世界におよんで行きます。
本書によれば、「地震で滅んだ国はないが、火山で滅んだ国はある」というくらいで、この噴火で日本は瀕死状態になることになりますが、そこからどう復活するかというプランが小説では描かれています。ネタバレになりますので、ここには書きませんがなかなか興味深い話ではありました。
火山と古事記の神話を結びつける話とか、自然農法の福岡正信さんを彷彿とさせる記述も織り交ぜてあって、個人的興味と不思議にマッチしていたのが面白かったです。

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主人公は奇跡的に命拾いしますし、ありがちですが、有能な科学者や政治家、官僚が登場してなんとかしてくれそうではあるのですが、そこに関してはリアルとはいえないかもしれません。現実にはそんなにうまい話はないんじゃないかなと思いますね。また災害の描写がリアルとは言え、本書の想定よりも現実はもっとひどいかもしれません。想定外というのはよくあることです。
まあ、このレベルの破局噴火は何万年とか何十万年に一回とかの頻度なので、ことさらに心配しても仕方ありませんし、そうなって巻き込まれてしまっても諦めも付くのかなと個人的には思いますが、例えば冒頭で書いた鬼界カルデラの一番最近の破局噴火が7300年前ということで、全くありえない話というわけでもないという感じもします。できれば生き残りたいですけどね。
最後に、この小説はGoogle Mapなどで地形や主人公の位置を確認しながら読んでいくのが良いですね。とても勉強になりました。
多くの人にぜひ読んでほしいおすすめの小説と言えます。

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