ちょっと前に話題になっていた時に買って冒頭は面白くて一気に読んだのですが、途中すこし飽きてしまい全部読むのに結局一年以上かかってしまいましたがとても面白い本でした。
私が購入したのは、こちらのKindle版の上下合本版です。

- 作者: ユヴァル・ノア・ハラリ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/09/16
- メディア: Kindle版
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この本で特に面白かったのが、農業について。従来、人類は植物を栽培化し利用することによってより豊かになり文明を高度化させてきたと考えられていますが、この本では面白い見方を提示しています。実は利用されていたのは人間の方であって、人間は植物に「家畜化」されたというのです。確かに、今や小麦などの穀物は地球上で一番成功した植物となっています。人間はつきっきりでそれら穀物の面倒をみているというわけです。もちろん、農業にはメリットもありました。農業によって人類全体の数を増やすことができたということです。しかしそれは個々の人間の幸福度を上げたわけではありませんでした。狩猟採集時代に比べて食べるものが単一の穀物に偏ったために栄養状態が悪化した上に、農業によって共同作業が必要になり集落で集団生活するようになったため、病気が蔓延するようになりました。また、農業によって人口を増やすことができたといっても、人が増えたらその分だけ食べるものも増やす必要があります。人は常に飢えた状態になるわけです(同時にそれらの人々を指導・扇動し搾取する飢えない層も出現した)。それから逃れようとすれば永遠と新たな土地を開拓していかなければなりません。そのうち他の集団とぶつかって土地を巡った争いが出てきます。
私は自分で食べるものを自給自足することに憧れていて、農業は戻るべき素晴らしい場所というイメージがありましたが、これを読んで少し暗い気持ちになってしまいました。戻るべきは農業ではなく狩猟採集生活だったのかもしれません。
とは言え、最初は植物に利用されて始まった農業かもしれませんが、人類は持ち前の頭の良さを生かしてその関係は今や逆転したようにも思えます。農業技術や機械の発達により、現在では穀物を育てるのに人間がかかりっきりになっているということはありません。農業は今や一部の人しか行わない職業となっています。また貿易・流通の発達により、今の人間は狩猟採集時代よりもより多様性のある食事をすることができるよう思えます。人口増加の問題はまだ続いていますが、分配さえうまく行えば人類すべてを飢えさせないだけの農業生産量はすでにあるとも言われています。ただ、レベルがどうであれ貧富の差というものが生まれる構造については、まだ克服できたとは言えないようですが。
この本では、人類を特別なものにした資質は、現実に存在しないものを頭の中で想像して信じる力だと主張しています。国家、企業、神、未来、いづれも物体として存在して見えるものではなく、人々が存在すると信じるから存在すると言えるものです。手に取れないものを信じるという力があったからこそ、人類はただの動物の小集団から抜け出し、未来に向かい力をあわせて他の動物では決してできないような事業を行うことができる種になったのです。
この手の本は科学的に確証のある話なのか著者の想像の域を出ない話なのかの区別はつきにくいのですが、なるほど合点がいくなあと楽しく読むことができました。値段は少し高いですが、それだけの価値があると思いました。
こちらのジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』が好きな人ならこの本も面白く感じると思います。

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
- 作者: ジャレド・ダイアモンド,倉骨彰
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2012/02/02
- メディア: 文庫
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同じ著者による新しい本『ホモ・デウス』も評判が良いようですので、時間ができたら読んでみたいなと思っています。

- 作者: ユヴァル・ノア・ハラリ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2018/09/06
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