前々から読みたいと思っていた風土記ですが、角川ソフィア文庫の『風土記(上)』がKindle Unlimitedで無料で読めるようになっていたので、読み始めてみました。
風土記は、713年の元明天皇による「各国の産物、地名の由来、土地の肥沃度、言い伝えを報告せよ」という命により作られた書物です。
完全なものが現存しているのは出雲(島根県)のもののみ、まとまった量が残っているのが常陸(茨城県)、播磨(兵庫県)、豊後(大分県)、肥前(佐賀県・長崎県)だけで、残りは他の書物内での引用という形で断片的にしか残ってないそうです。
もっとちゃんと保存しておいてくれたらなと残念になります(公文書の保存は本当に重要です)が、現存しているものだけでも当時の色々な様子が伺える貴重な資料となっています。
さて、角川ソフィア文庫の『風土記(上)』では常陸国風土記、出雲国風土記、播磨国風土記をカバーしています。下巻はKindle Unlimitedの対象とはなっていませんが、結構美味しいところが含まれているので、上巻だけでも結構楽しめるのではないでしょうか。

- 作者: 中村啓信
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川学芸出版
- 発売日: 2016/05/25
- メディア: Kindle版
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古典は読み進めるのに時間がかかりますが、最初の常陸国風土記を読み終わりました。この角川ソフィア文庫のKindle版は脚注のリンクがつながっていないので少し読みにくいですね。私はMac上のKindleアプリと、Kindle paperwhiteを併用して、paperwhiteの方では注を表示させて読んでいました。
私は茨城県のことはあまり詳しくなかったのですが、常陸国風土記読むと、茨城県は理想郷のようなとても素晴らしいところだったんだなということが伝わってきます(当然書いた人の誇張もないことはないと思いますが)。
確かに、地図を見てみると、茨城県は東には太平洋、南には霞ヶ浦、平地もそこそこあり、山もあるが険しすぎない。山海の幸が豊富で、住みやすそうなところだと感じます。茨城県には鹿島神宮という古代からの大きな神社もありますし、かなり重要な地だったのかもしれません。
とくに印象に残ったのがこちらの一節。
夫れ常陸国は、堺は是れ広く大きく、地も緬邈なり。土壌沃え墳ち、原野肥え衍る。墾り発く処と山海の利あり。人々自得かに、家々足饒かなり。もし身を耕耘に労め、力を紡に竭す者有らば、立ちどころに冨豊を取るべく、自然に貧窮きを免るべし。況むやまた、塩と魚の味を求めむには、左は山右は海なり。桑を植ゑ麻を種かむには、後は野前は原なり。いはゆる水陸の府蔵、物産の膏腴。古の人常世国と云へるは、盖し疑ふらくは此の地か。
ちゃんと働けば豊かに生きることができるというのはとても素晴らしいことですよね。
またこんな一節もあります。
夫れ、此の地は、芳菲き嘉き辰、揺落つる涼しき候、駕を命せて向き、舟に乗りて遊ぶ。春は浦の花千に彩り、秋は是れ岸の葉百に色づく。歌ふ鶯を野の頭に聞き、儛ふ鶴を渚の干に覧る。社の郎と漁の嬢と浜洲を逐ひて輻湊まり、商豎と農夫とはに棹さして往来す。况むや、三夏の熱き朝、九陽の煎る夕は、友を嘯び僕を率て、浜曲に並び坐て、海中を騁望く。濤の気稍く扇げば、暑さを避くる者は鬱陶しき煩ひを袪き、岡の陰徐に傾けば、涼しきを追ふ者は歓然しき意を軫かす。
レジャーもちゃんとあって、のどかで楽しそうな生活が想像できます。ちょっと茨城県に住んでみたくなりました。
とはいえ、盗賊や怪物が出たという話も載っていたりして、楽しいことばかりではないのはいつの時代も同じ。
風土記を読んでいると、こんなはるか昔の人も今の人とたいして変わりない生活をしていたんだなあということが分かります。
そして風土記を読む際の醍醐味といえば、やはり地名だと思います。冒頭で書いた通り、風土記には地名の由来がたくさん書いてあり、そこに出てくる地名は、現在でもかなり残っていて、Google Mapを片手に「これはここだな」という感じで読んで行くととても楽しいのでおすすめです。
伊多久(いたく)の郷 → 潮来(いたこ)市のように少し変化しているものは特に面白いですね。
また、Googleマップで検索しても茨城県では見つからず他の県でヒットする地名があると、人が移住した結果なのかななどと想像できて楽しいです。
古い時代の地名が現在でも残って使われていることを知ると、今の日本は古代の人たちと確実につながっているんだなと感じられて、とても感慨深いです。
以上、とりあえず常陸国風土記を読んだ感想でした。地理好きの人には特におすすめの古典だと思います。
地名については以前こんな記事も書きました。